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「ディビジョン2」とは、結局、何だったのか?

ログアウトしてから半年ほど経った。

以前、僕は「Division2」に多くの時間を費やしていた。前作「Tom Clansy’s The Division」から遊び続けて来た古参プレーヤーの一人だった。

Division2は前作からの古参プレーヤーから酷評されていた。とりわけダークゾーンに対する批判が多かったように思う。

ダークゾーンとはマップ内の隔離されたエリアで、AI制御の敵NPCに加え、プレイヤー同士がPvP対戦することが可能だ。そこは、初心者狩り、強奪、裏切り行為、チーム同士のデスマッチ、リンチ、あらゆる悪行が横行する危険なエリアとしてヘビーユーザーの間で遊ばれていた。

Division2にも前作同様ダークゾーンはあるが、どういうわけか三つに分割され、小さくなってしまった。ビギナーが一方的にキルされてしまう状況に配慮したのか、レベル格差を相殺するノーマライゼーション ( Normalization ) というシステムが導入された。

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過疎化したダークゾーン

Division2のダークゾーンに対する批判の多くは、前作からプレイしているベテラン勢からのものだ。

元々、僕はダークゾーンには全く立ち入らなかった。入ったことは何度かあるが、大抵は、背後から集団で襲われ、抵抗する間もなく一瞬で苦労して集めたアイテムを奪われるのがオチだった。

正直、前作のダークゾーンは、僕にとっては全く楽しめない破綻したシステムだった。だから、僕は密かに、酷評に反してノーマライゼーションシステムの導入には賛成していたのだ。これでダークゾーンが少しはマシになると。

しかし、Divison2が発売されて以来、ダークゾーンは過疎化している。たまにプレーヤーを見つけるが、PvPに発展することもなくすれ違う程度で、やっていることはダークゾーンの外、PvEエリアと何ら変わらないのだ。

Division2のダークゾーンに失望する声の多くは、僕には

「これじゃ初心者狩りが出来ないじゃねえか」
「何してくれるんだよ。ストレス解消出来ないじゃん」

という狩る側の嘆きにしか聞こえなかった。

前作のダークゾーンがベテラン勢に好評だったのは、” 一方的に勝つことが出来たから ” ただ、それだけのような気もする。それは、体育館裏の物置小屋を閉め出されたじめっ子の憤りにも近い。

Division2でダークゾーンが過疎化した理由は、ベテラン勢のささやかなる楽しみを奪ったという側面もあるが、もう一つは、狩られる側がダークゾーンに行く必要が無くなったという理由もあるだろう。

これまでは、ダークゾーンでなければ、性能の良いレアアイテムを入手出来ないという差別化があったように思う。だから、レアアイテムが欲しければリスクを冒してダークゾーンに出向く必要があった。

しかし、いつしか、アップデートの調整により、どこにでもレアアイテムはドロップするようになり、リスクと報酬のバランスが崩れてしまった。

マッシブ批判に感じる違和感

Division2に対する批評の中には、開発元がUBIの子会社であるレッドストームから、マッシブへと移ったことが、前作に比べ、Division2が劣化した原因だとするものがあるが、僕はそう考えない。

問題は、開発元がどこかではなく ” Division ” というブランドが何を目指しているかが重要である。

先ほど説明した ” ノーマライゼーション ” が、まさにUBIが、Divisionシリーズに求めているものだ。なぜ、前作を長い間遊び続けて来たコアなファンを落胆させるようなシステムを採用したのか、なぜ、ダークゾーンを三つに分割したのか。

UBIは、Divisionシリーズを一部の熱狂的なコアファンのためのものではなく、もっと幅広い層に向けたコンシューマーゲームにする必要があった。利益拡大のために。

だから、ビギナーでも遊びやすく楽しめるための設計を取り入れた。レベル格差を解消、ワンサイドゲームになりにくい環境を提供し、Divisionシリーズの人気コンテンツであったダークゾーンを三つに分割した。この分割によって、これまでダークゾーンをテリトリーとしてきたコア層を小さな箱に隔離し、入ってきたばかりの初心者でもこの人気コンテンツを楽しめるように配慮した。

アップデートによって、これまで初心者にはとっつきにくかった数値による装備の性能表示を視覚的に分かりやすいものに変更。エクセルや電卓を使わなくても直感的に装備の調整が出来るようになった。

高性能アイテムのドロップ率を上げ、入手手段を限定しなくなった。これによりビギナーは容易に希望するビルドを組めるようになり、プレイ時間による格差緩和に貢献した。

また、UBIが、Division2の世界観を引き継ぐ形の新タイトル「Tom Clansy’s The Division Heartland」のリリースを計画していることを発表。Divisionのモバイル版発売も予定しているという。

フォートナイトの世界的ヒットを意識してのことなのか、Heartland は基本プレイ無料とされており、完全にUBIがコアゲーマーでなく、一般消費者にロックオンしていることが分かる。そう考えると、次のように言えなくもない。

Division2は劣化したのでない。コンシューマーゲームとして売り出すためのファーストステップとして作られた実験的作品なのだ。

マッシブがこれまで行ったアップデートは、我々、古参プレーヤーの要望に沿うためではなく、新規プレーヤーを取り込むためである。

コアファンの意見が無視されたとしても、それはマッシブが無能だからでもなく、開発陣に声が届いていないわけでもなく、そもそもUBIの視点がそこには無いからだ。

むしろ、コア層の意見を採用することは、新規ユーザーが入りづらい、より閉鎖的な空間になる可能性がある。UBIはそれを望まないだろう。

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不死鳥アーロン・キーナー

実は、個人的には前作よりもDivision2の方が評価は高い。それは、スキルがより多様化され、戦術の幅が広がったことだ。シグネチャーウェポンと呼ばれる個性的な武器も単純に楽しい。

ランキングや勝ち負けに拘るタイプのプレーヤーは、誰もが同じ組み合わせの装備を使い、ただひたすら指先の操作技術を競い合うが、僕にとってのDivision2は、あくまでお遊びであり、気晴らしでしかない。ゆえに、Division2のカジュアル寄りの設計が合っていた。

では、なぜ、Division2を卒業することになったのか?

先が見えたのである。

これは、Divisionシリーズに限らず、” ハスクラ系 ” と呼ばれるゲームの宿命とも言えるが、通常、ゲームの目的はボスを倒すことだったり、脱出することだったり、謎を解くことだったりする。明確な目標があり、それに向かってプレイするわけだ。

より強い武器を手に入れる、より強い魔法を習得することは、全て王国に平和を取り戻すという大義名分のためであり、それを達成した後にプレイヤーはその世界を卒業する。つまり、これまでのゲームには卒業するための ” エンディング ” があった。

しかし、今日のオンラインゲームは、永遠にプレイヤーを縛り付けておくために、できるだけ開発コストを回収し、利益を上げるために ” エンディング ” を作らない。それを与えてしまえば、プレイヤーは満足し、関心を失い、別のゲームを始めてしまう。

アップデートを重ね、時々コンテンツを追加し、興味を惹きつけ続けることで、ライバル社のゲームへ流れることを阻止したい。

Division2では、一応は、エンディングらしきものはある。最大の宿敵、アーロン・キーナーを倒すという。ただ、倒したからと言って終わるわけではなく、スタート地点に戻って再プレイをクリックすれば、死んだはずのキーナーと何度でも戦うことが出来る。

たった一度きりの勝負だからこそ感動もあるが、もはやキーナーは、アイテム目的のプレイヤーにとって単なる ” 面倒くさいNPC ” でしかない。

商業主義によって、キーナーは何度でも蘇る不死鳥になったのだ。

目的の目的が目的になる時

ゲームには目的が必要だ。でなけば、何のために時間を費やしてプレイしているのか、プレイヤーは動機を失ってしまう。

しかし、今、説明したようにDivision2にエンディングは無い。要するに開発側はプレーヤーに、キーナー打倒ではなく、別の目的を与える必要がある。

そこで、” 目的 ” の部分にはめ込まれたのが ” 装備の強化 ” である。

必死になって敵をキルし続けるのも、同じマップをグルグル回ってアイテム収集するのも、イベントに参加してリワードを獲得するのも、結局は強い装備を手に入れ、” 今よりも強くなること ” が目的だ。

なぜ、強くならなければいけないのか? それは、敵を打倒し、より強い装備を手に入れ、” 今よりも強くなるため ” だ。

目的部分がループしていることに気づいただろうか。つまり、この欲求は永久に満たすことが出来ない。偶然、そうなっているのではない。設計者が僕たちを永久に閉じ込めておくために、終わりと始まりを繋げて ” リング ” を作ったのだ。

多分、ハスクラというジャンル自体が、今の商業主義ゲーム産業が目的とする ” ゲーマーの囲い込み ” を実現するために編み出されたモデルなのだろう。

これに気づいた時点で、僕の中のDivisionシリーズに対する熱は急速に冷めていった。

それからというもの、必死になってミッションを周回し、アイテムを集めて装備の調整をしているプレイヤーの集団を見ていて、何とも虚しい気持ちになった。

僕たちは何をしている? 強くなった先には何も無いというのに・・

” レベルアップ依存 ” という問題

Divisionシリーズのコミュニティでは、アイテムドロップ率が話題になることがある。つまり、「もっと強い装備を出してくれ!」「ドロップ率が低すぎる!」といった声だ。

マンネリ化したプレーヤーたちが、強い武器を手に入れ、敵をなぎ倒す爽快感を求めているのだ。しかし、それを求めることは、Divisionというゲームの寿命を縮めることになりかねない。極端な話、核弾頭でも持たせて、1秒で敵をせん滅出来るとしたら、もはや、ゲームですらなくなってしまう。

このハスクラゲームに見られる、ただひたすら ” 強さ ” を追求するプレーヤーの心理を ” レベルアップ依存 ” と呼ぶことにする。

Division2というプラットフォームは、このレベルアップ依存という問題、解決出来ない弱点を抱えている。具体的には、レベルアップを求め続けるプレーヤーを希望どおりレベルアップさせていくことで、最終的に敵NPCが弱体化し、ミッションの難易度が下がってしまうという現象が起こる。

実際、僕もマルチプレイミッションに参加している時、あまりに強いプレーヤーが敵をなぎ倒し、ゲームバランスを滅茶苦茶にしている状況を何度となく目にしてきた。もはや、一方的にNPCを集団リンチしているような状態だ。チート行為ではない。プレーヤーレベルが高くなり過ぎたことでミッションが破綻しているのだ。

唯一、最難関ミッションとされる ” レジェンダリー ” と8人参加のレイドミッションだけが持ちこたえているが、ヒロイックミッションは惨憺たる状況だ。

度々、コミュニティから要求として上がっていた格納庫の拡張をマッシブが頑なに認めなかったのも、結局は装備のストック量を抑え、レベルアップ依存の問題を加速させないための一つの抵抗だったのだろう。

実は、前作でも同じ現象は起こっていた。それを解消する一つの形が追加コンテンツ「サバイバル」だった。

サバイバルでは、これまで獲得した装備を全てはぎ取られ、ゼロからのスタートとなる。つまり、ミッションとプレーヤーレベルのバランス調整をコンテンツ限定で行ったのだ。それによってサバイバルはエキサイティングなコンテンツとして長く遊ばれるものとなった。

僕が卒業してから間もなくして、UBIは新作 Heartland を発表し、Division2は、レベルアップ依存の問題を解決できないまま、その役目を終えようとしている。

願わくば、新作では二の轍を踏まないことを祈っている。

ディビジョン – PS4
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