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終わりつつある ” 知名度先行 ” の時代

Twitterのタイムラインに、とある炎上騒動のニュースが流れて来た。

それによると、某コメンテーター ( 2chの創設者、最近では ” 論破芸人 ” とも呼ばれているネット界隈では有名 ) が、某ブロガーと論争になっているという。

2021年7月2日、サッカーのフランス代表ウスマン・デンべレ氏とアントワーヌ・グリーズマン氏が差別発言をしている動画がネットで拡散されたというニュースを受け、フランスに在住している某コメンテーターが「あの言い方は差別ではない」と発言し、同じくフランス在住の一般人ブロガーに反論されたことが発端だった。

最初、僕は、ネットでよくある炎上騒動だと思っていたが、とりわけ関心を惹いたのは、某コメンテーターが喧嘩をしている相手が、ネット界隈ではあまり知られていない人物だという点だ。炎上の経緯を調べていると、彼の素性が段々と分かってきた。

彼は、トルコ少数民族言語を研究する言語学者であり、それまで少数民族の存在を否定してきたトルコ政府に、その存在を認めさせたという異色の経歴の持ち主だ。著書もあり、多分、その分野では名の知れた人物なのだろう。

つまり、某コメンテーターは、長いフランス在住歴を持つ言語の専門家に、フランス語に関する議論を始めてしまったわけだ。その議論がどうなったかは想像に難くない。

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拡散中の一本の動画

一方、この炎上騒動が発端になっているのか、YouTubeでは一本の動画が尋常ではない視聴回数を叩き出していた。

それは、同じく某コメンテーターと、とある経済学者が、出産家庭に現金を支給するというアイデアについて議論するという内容だったが、お互いの話が噛み合わず一向に議論が進まない様子を記録したものだ。

経済学者の運営するチャンネルでの公開ということもあり、コメント欄では、某コメンテーターは視聴者らによってコテンパンにけなされていた。ホームグラウンドでそうなるのは目に見えているということで、Twitterでもこの件に関して検索をした。ちらほらとコメンテーター側を擁護する意見もあったが、大部分はYouTubeのコメント欄と同じ傾向だった。

動画は、現時点で913,960回再生されている。

前述の言語学者についても、動画公開した経済学者についても、知る人ぞ知るというタイプの ” 専門家 ” であり、一般人に対する認知はそれほど高くない。逆に、派手な言動によってメディアに取り上げられ、SNSで度々拡散される ” 炎上系 ” とも言えるインフルエンサーの方が、一般に対する認知度が高い。

今回の炎上騒動を見ていて、最近、僕がネット社会に感じていたことが、一つの形として表れているような気がした。それは、” 時代の変化 ” だ。

派手な言動で人々の注目を集め、大きな影響力を誇示してきた ” 個人 ” たちが幅を利かせていた世界というのが、これまでのネット社会だった。その一つの形がインフルエンサーだったわけだが、十年前なら、彼らは古臭い日本社会の常識に囚われず時代の先端を先駆ける ” ニュータイプ ” のような立ち位置だった。

しかし、今、少しずつ状況が変わってきているように感じる。

彼らは ” 旧体制 ” になりつつある。

評価バランスへの疑問

今回の炎上騒動に対する人々の反応を見ていると、思っていた以上に某コメンテーターへの擁護が少なかったことに驚いた。

ネット社会では知名度こそが優位性であり、知名度があれば何を発言しようと ” 凄い ” とか ” さすが ” という心無い誉め言葉が飛び交う世界、多くの人が ” 影響力 ” になびく世界、というのがこれまでの僕の認識だった。

しかし、多くのコメントやツイートを見ていると、闇雲に影響力に追従するのでなく、冷静な視線で彼らを評価していることに気づかされる。某コメンテーターの論法を分析し、鋭いツッコミを入れる者、主張していることが矛盾していると過去ツイートを引っ張り出す者、中には人格攻撃、罵声のような酷いコメントもあった。

インフルエンサーが、こういった反発を ” 嫉妬するアンチ勢 ” として一まとめにして片づけることは可能だ。ただ、なぜ、そんなに恨みを買ってしまったのだろう? 

次は、印象的だった二つのコメントだ。

「なぜ、彼が世間的に評価されているのかが分からない」
「ツイート見て安心した。皆ちゃんと分かってるんだ」(某コメンテーターのレトリックを見破るコメントに対して)

アンチたちの ” 恨み ” の根源は、この二つのコメントに要約されているように思う。つまり、実力に対する評価が過大であるという不均衡に対し、疑問を呈しているのだ。

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YouTube界隈の変化

時代を先駆けてきた ” ニュータイプ ” ” 次世代 ” とされた個人たちが、少しずつテリトリーを奪われていく現象は、既にYouTube界隈でも起こっている。芸能界から芸能事務所のバックアップを受けた大量の ” プロ ” がなだれ込んできたのは誰もが知っているだろう。ここ一,二年でYouTubeの状況は様変わりしている。

もはや、思いつきの素人企画では視聴回数を稼ぐことが出来なくなっており、投稿が数か月前から止まっている事実上 ” 撤退 ” とも言えるチャンネルも数多い。引退宣言をするユーチューバーも出てきている。

つまり、実力のある芸能のプロが参入したことによって、知名度によって辛うじて地位を保っていたネット発の ” 素人有名人 ” らが、弱者から順に脱落しているのだ。徐々にではあるが、クリエイターへの評価が ” 知名度 ” から ” 実力 ” に変わってきているようにも思える。

ただ、現時点でも知名度が重要な要素であることには変わりなく、地位を確立したトップクリエイターは今後も揺らぐことはないだろう。問題はブームに乗って突き抜けることが出来なかった中間層である。

YouTubeが世間一般に浸透することで入ってきた新しい視聴者層にとって、古参のユーチューバーは「誰?こいつ」でしかない。それまでネットで積み重ねてきた知名度は、彼らにとって何の指標にもならないのだ。

ここに二つの動画がある。一つは、十年のキャリアを持つ界隈では超有名なユーチューバーの雑談ライブ。もう一つはテレビでよく見ている芸能人のプロ企画動画。彼らはどちらを見るだろう?

炎上の後に残るもの

つい10年前ならば、知名度の高い有名人が発信したものを大勢の一般人が受け取るという構図が当たり前の世界だった。あの頃は、一度、知名度をつかんでしまえば、発信するものがどうであれマネタイズは可能だった。

過去、” 炎上商法 ” という言葉もあった。世間から非難を浴びそうなことをあえて行い、人々の注目を集める。注目が集まったところで謝罪メッセージを出し沈静化を図る。結果、” 昔悪かったけど厚生した善人 ” としての知名度だけが残る。

後はその知名度を利用して発信し続けることでファンを獲得する。時には、犯罪すれすれの迷惑行為を行う者さえ現れた。

馬鹿げてはいるが、人に迷惑をかけても有名になりさえすれば、許される世界だったのだ。

しかし、インターネットの成熟と共に、人々もネット社会の中で情報の真偽を見抜く能力を培ってきたように思う。口先だけの論法や派手なパフォーマンスだけでは簡単に評価しなくなった。

今は、SNSを通じて誰もが発信する時代である。もはや、情報源は発信力のあるインフルエンサーに限られているわけではない。 情報の質は玉石混合となり、より選択肢が広がっている。その中から ” 真実 ” を見つけ出すための嗅覚が発達してもおかしくはない。

某有名ユーチューバーが、今回の言語学者 vs 某コメンテーターの炎上騒動に対して、次のような見解を出している。「かしこいやり方。炎上によって注目を集め、結果、自分の収益にしている」

僕はこの意見を聞いて疑問だった。炎上はしているが、拡散しているのは本人の動画ではなく、アンチが投稿している「切り抜き動画」だからだ。間接的に知名度に貢献していると言えなくもないが、信用を失えばコメンテーター業に影響があるようにも思える。長期的にはマイナスだろう。

情報発信の民主化

いずれにせよ、情報発信の民主化が進んでいる。情報の一極集中から、分散し、選択できるようになった。今後は、そういった流れが加速していくのではないだろうか。

つまり、主権を握っていた発信力の強い一部の ” 個人 ” の時代は終わり、より情報の信ぴょう性、質が求められる時代になっていく。今回の言語学者 vs 某コメンテーターの炎上騒動に、時代の変化が集約されているような気がする。

知名度先行の派手なパフォーマンスではなく、より ” 本格志向 ” が求められる時代。

情報発信民主化の波によって、本格派の知識人がこれまで人知れず発信してきたコンテンツの価値を、ようやく人々が見出しはじめた、ということかもしれない。


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