ゼロレーティングという波
2018年9月、ソフトバンクは「ウルトラギガモンスター+」という新プランを打ち出した。これによって、動画やSNSをデータ通信量を気にすることなく、実質、無制限に楽しむことが出来る。いわゆる、動画SNS放題「ゼロレーティング」だ。
このゼロレーティングという仕組みに総務省が「待った」をかけた。先日、電気通信事業法に基づく指針を作って一部を規制する方針を固めたのだ。
ソフトバンクが打ち出した新プランは、事実上、今、成長株であるYouTubeを筆頭に、大手のソーシャルネットワークサービスの利用者を一手に囲い込む戦略だ。
ソフトバンクは、コンテンツの提供者と消費者の間に入り、それらを繋ぐ強力なサプライチェーンになろうとしている。これにより、リソースの少ない中小の通信事業者は、市場に入る余地が無くなってしまう。総務省はそれを恐れているようだ。
来年、2020年頃にはモバイル通信4Gをグレードアップした「5G」と呼ばれる技術が出てくるという話もある。5Gによってこれまでデータ量が多く敬遠されていた動画コンテンツが一般的に見られるようになり、動画市場がより拡大するという見方もあるようだ。
ただ、今回の総務省の決定によって、動画市場拡大への期待に水を差す形となった。
SNSでは、このニュースを聞きつけた人々が、一斉に政府の決定を批判している。
クライマーズハイ
新しいテクノロジーが拡大する過程で政府が規制を課すという構図は、つい最近にも見たような気がする。仮想通貨だ。
仮想通貨バブルが到来する一方で、世界各地で規制強化の動きが活発になった。それを機に暴落を始め、コインチェックのハッキング事件などでその信用を完全に失ってしまった。
結局、仮想通貨という技術は、今の社会ではまだコントロール出来ないものだった、ということなのかもしれない。
社会を変えるほどのインパクトのある技術やアイデアは、それが拡大すれば人々に恩恵をもたらすが、その反面、予測不可能な事態を引き起こして世界のバランスを崩す可能性もある。
革命を起こそうとする側、大きな恩恵を得られる側は、一種の「クライマーズハイ」のような状態になり、その後に何が起こるかという問題に耳を塞いで、声高に「テクノロジーの進歩を保守派が阻害している」と批判する。
そのとおりだ。わざわざ阻害しているのである。
変化は止められない
今回のゼロレーティングでの一件は、仮想通貨ほどのインパクトは無いが、結局のところ、革命側とバランスが崩れることを恐れる保守側の対立構造という部分では同じだ。
市民は、常に革命側に就く。動画がどこでも気兼ねなく見られるならば、喜んで旗を振るだろう。そして「テクノロジーの進化を邪魔するな!」と主張していれば、先進的に見えてかっこいい。「いいね」もたくさんもらえるだろう。
そんなことは総務省も分かっているはずだ。自分たちが、テクノロジーの進化を阻害している「悪役」であることも知っている。そして、誰かが「悪役」を演じなければならないことも知っている。その上での法規制だ。
ただ、ゼロレーティングという仕組みが、僕たちに恩恵をもたらすことは事実だろう。そして動画コンテンツは、人々の日常生活に浸透していくことになる。
ここで確かなのは、今回の方針決定によって規制が実現したとしても、5G技術やソフトバンクの挑戦が途絶えることはない、ということだ。
規制が多少の足枷になったとしても人々が求める以上、それはやがて社会に受け入れられて「常識」になる。
僕たちは、スティーブ・ジョブスやマーク・ザッカーバーグが、世界を変えていくのを目撃してきた。そして「変化」は止まらないことを知っている。だから、SNSで大げさに騒ぎ立てて、心配する必要はないのだ。
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